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執筆者の写真秋山 健一郎

みのりセミナー「ジョブ型人事指針の問題点―ジョブに基づく人事制度のあるべき姿―」開催結果報告


 


2024年11月15日(金)13:30より15:00まで掲題セミナーを開催致しました。参加頂いた方々にはお礼申し上げます。改めて「ジョブに基づく人事制度」への関心の高さを感じさせられました。今回のセミナーは本年5月24日開催の「ジョブに基づく人事制度の全体像~企業理念・経営戦略を実現させるための人材マネジメントシステム~」の続編です。特に本年8月に政府より「ジョブ型人事指針」が発表されましたので、その内容を吟味し、「ジョブ型人事」と呼ばれるものに見られる誤解を指摘し、本来あるべきジョブに基づく人事制度がいかなるものかを中心に説明をさせて頂きました。一つお詫びをさせて頂かなくてはならないのは、セミナー最後に参加者の方々にアンケートをお願いしたのですが、アンケートサイトへの誘導が分かりにくく、何人かの方々から指摘されて気付いたような次第で、ご迷惑をお掛けしたことお詫び申し上げます。


ここ数年は「ジョブ型人事」という言葉が新聞・雑誌紙上を賑わわせていますので、注目度は高まってきていますが、実態を見ると本来あるべき姿からは程遠いと言わざるを得ない状況です。その典型は政府から発表された「ジョブ型人事指針」(2024年8月28日内閣官房、経済産業省、厚生労働省連名)なるものに書かれている内容です。セミナーではまずこの点から説明させて頂きました。「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」という書き出しから始まり、「個々の職務に応じて必要となるスキルを設定し、スキルギャップの克服に向けて、従業員が上司と相談をしつつ、自ら職務やリ・スキリングの内容を選択していくジョブ型人事に移行する必要がある」と書かれていますが、これが「ジョブ型人事」の定義なのであろうか?と疑問を感じざるをえません。肝心の職務(ジョブ)の議論を飛ばして「スキル」を設定すること、そのスキルギャップを克服することに議論が飛んでしまっています。


セミナーでは敢えて人事制度とは何かと言う原点に立ち返った説明をさせて頂きました。「ジョブに基づく人事制度とは社員を公平・公正に処遇するための仕組みとして、その基盤をジョブとし、その基盤の上に構築された人事制度のことを指している」と。政府が転換すべき対象とした日本の従来型人事制度は、職務(ジョブ)ではなく年齢・性別・学歴等々の属人的な要素を基盤としており、今回政府が目指しているのはまさにその人事制度の基盤を属人的な要素から職務(ジョブ)という、より客観的な要素に転換しようという試みだと理解できるし、またそうでなければ「日本企業の競争力維持」に続く道筋が見えません。残念ながら日本の戦後の人事制度の歴史を振り返ると、高度経済成長下で属人的な要素を基盤とした人事があまりにもうまく機能したため、社員の公平・公正な処遇のための基盤転換が行われなかった。議論がすぐにスキルに飛んでしまうのは、日本の人事慣行が属人的な要素を基盤とすることに慣れ親しみ過ぎたことに由来していると考えられます。


スキルとか知識とかが求められるのは、その組織における「職務(ジョブ)」として求められるものを生み出す上で必要だからであり、その「職務(ジョブ)」の定義づけ無しにはスキルの議論はできません。例えば高度なIT 知識・スキルが求められるのは、それを用いて組織として求める職務の成果を生み出してくれて初めて意味あるものとなります。期待する職務とその成果が明確でない限り、どのような高度なスキルの定義づけも意味がありません。公平・公正な人事制度とは、属人的な要素ではなく組織の求める成果に基づいて明確に定義づけされた職務(ジョブ)に基づくのが原則です。その上でその職務に就く社員が年齢・性別・学歴等の属人的な要素を離れて客観的に評価・処遇が決定されるのです。

 

セミナーでは、このような原則的な議論から説明を始め、それを実現するためには具体的にどのような制度作りをすればよいかという説明に入って行きました。政府が「ジョブ型人事指針」と言える「指針」を出すのであれば、社員の公平公正な処遇のための人事制度とは何か、そしてそのための基盤となる「職務(ジョブ)」はどのように定義づけすべきなのかのガイドラインを明確にすべきであると思います。先行各社の人事制度の例を示し、それを基に自社の人事制度を設計しろと言うのは「指針」には値しないのではなかろうか。さらに言えば「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」というのであれば、賃金の市場データも「ジョブ」に基づくデータとすべく政府としてその方向で動き出す道筋を示すべきであろうと考えています。


みのりは創立以来「ジョブ(職務・役割)」に基づく人事制度の基本的な特徴に関して情報発信してきました。しかしまだまだ理解が行き届いておらず、日本的な人事制度では相変わらず社員の「年齢・性別・在籍年数・能力」などの属人的な要素が基盤として当たり前化しています。会社は共同体ではなく、市場において顧客に製品・サービスを提供して利益を得る機能体が基本的なあり方ですから、社員の処遇を決める基盤が機能体を支える仕事・役割に基づくのは当然の理屈です。多様性の重要性が強調されるこの頃ですが、重要なのは多様性そのものがそれ自体で処遇の基準となるのではなく、求められる「職務(ジョブ)」という基盤があって初めて、多様な人材を配置することが可能となるのです。人事制度における等級は人の序列ではなく、仕事・役割の序列であることを経営者・社員とも認識すべきだと考えています。この点を改めて強調したセミナーでした。


来年みのりは創業22年目に入ります。これからのセミナーはもう少し踏み込んで具体的な「ジョブ(職務・役割)」の定義の仕方とそれに基づくその重要度の評価、できればそこからどのように等級を作るかというところまで解説したいと考えています。ご興味おありの方は是非参加して頂きたいと思います。

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