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ホットな話題コーナー

 

職務明確化の方法(5)

2021年08月14日

株式会社 みのり経営研究所
 代表取締役 秋山 健一郎

 

6月29日に掲題セミナーの最終回を行った。方法論の詳細が続いたせいか、参加者は前回までと異なり少人数であった。しかしセミナー終了後かなり実践的な質問が提示され、注目度の高さを感じさせられた。時間が経ってしまったが、「職務明確化」の最後の締めくくりとして「貢献責任の抽出方法」と「貢献責任記述の決め事」を説明してみたい。

 

前回までで職務・役割の定義から始まり「貢献責任」という考え方を説明させて頂いた。職務・役割の構造を理解して頂ければ、この概念の重要さは理解して頂けたと思う。次の課題は膨大な業務活動からなる職務・役割からどうやってこの「貢献責任」を抽出するかである。このやり方にはトップダウンによる方法とボトムアップによる方法の二つがある。30年前、職務分析を始めた頃は、ボトムアップによる抽出が一般的であった。社員を集めてどのような業務活動をしているかを書き出して頂き、それらが何のために行われているかを確認しながら、それぞれの社員の「貢献責任」をギリギリまで絞り込み、特定するというプロセスを踏んでいたのである。これは大変時間と労力のかかるプロセスであったが、当時はこのプロセスそのものから得られることが多いとの評価を頂いていた。特に会社の根幹を支える職務・役割に対する経営トップの考え方と社員の考え方とのズレが具体的に表面化したのである。「貢献責任」は単に概念的な理解だけでなく、この記事の後半で述べるように明確な記述を求められるため、その「ズレ」が「見える化」されたのである。このズレの修正は、社員の職務・役割に対する認識を修正する機会となり、その結果が公式に文章化されたのである。

 

もう一つのトップダウンによる方法は、経営トップが求める社員の貢献責任のあるべき姿を最初に提示する方法である。経営戦略の重要性が浸透してきた最近はどの会社でも必ず経営戦略が明示されている。それを個々の管理職・社員の職務・役割にまで具体的にブレークダウンするのが、「貢献責任」を明確化するトップダウンによる方法である。以前みのりのコラムで「思いの実現を支える組織づくり」を書いたことがある。多くの会社では組織の構造は示されるが、その構造の持つ目的・求めるアウトプットが、その構造の中に位置づけられた個々の職務・役割にまで落とし込まれることが少ないことを指摘した。みのりコンセプト(1)の絵が示しているように、職務・役割は経営戦略とそれに基づく組織構造から引き出されるものであり、このプロセスが無ければ組織構造は絵にかいた餅に終わってしまう。

 

トップダウンによる方法のもう一つの形は、上司の貢献責任から部下の貢献責任を抽出する方法である。上司の貢献責任が示されれば、部下は自分の貢献責任の在り方を考えやすくなる。経営トップ自身が考える「貢献責任」の在り方がその直下の経営幹部の職務・役割に正しくブレークダウンされていれば、その貢献責任に基づき、それより下位の部下の貢献責任を的確に記述することが可能となる。

 

トップダウンによる方法を取ることにより、貢献責任の大枠が決まると全ての職務・役割の貢献責任を明確化するプロセスは大幅に簡略化され時間的にも短縮される。実際にはトップダウンによる方法とボトムアップによる方法を組み合わせることにより、現場で行われている重要な価値創造の業務活動が浮かび上がり、全社的により良い貢献責任のリストが出来上がることにつながる。

「職務明確化の方法」最後の項目は「貢献責任記述の決め事」である。極めて初歩的な内容であるが、これが「貢献責任」の質を高める上で大変重要な要素となる。記述の基本ルールは下記の通りである:
(1)「~を~する」と言い切る
(2)一つの文には一つの貢献責任
(3)貢献責任の個数は5-9個
(4)中長期的に妥当する表現
当たり前のことの様であるが、30年間、様々な企業で実施した経験からはこれらが守られないことが多いのである。実際に自身の職務・役割の貢献責任であるという認識のもとに、明確に書いたものとして残ることを考えると、「~を~する」と一つに絞り込んで書くことに抵抗を示す社員は多い。結果として、例えば開発担当の職務・役割であっても「〇〇商品を開発する」とは言い切れず、「開発を検討する」「開発を図る」「開発を管理する」等々の曖昧な表現にしたがる傾向がある。単純でいて更に重要なのは(3)の数の制限である。これには両極端の反応がある。一つは「私の責任は売ることであるから、売り上げを拡大するだけで充分である」というもの。しかし特に管理職の場合「部下の育成」あるいは「売り方の質・効率」「顧客・外部との関係」等々はどうするのかということは考えていないケース。もう一つは逆に「私の仕事は様々なことをやっていて、とても9つに絞ることは出来ない」というもの。業務活動が自身の職務・役割だと思い込んでいるケースである。業務活動はより良く貢献責任を果たすために変えて行かなければならないという発想が出来ない。たった4つの基本ルールであるが、これを守ることにより、組織運営上様々な効果が期待できるのである。その効果についての説明は別の機会に譲りたいと思う。

 

5回に渡り「職務明確化の方法」について書いてきた。技術的な内容であるが、これを進めて行くことの会社経営にとっての意味は大きいと思っている。「ジョブ型雇用」という言葉が様々なメディアを通じて話題に上っているが、肝心な「ジョブとは何か」という一番基本的なところが抜けていて議論がかみ合っていないように見える。ある特定の職務・役割だけを捉えて「ジョブ型雇用」を適用するというような議論は、人事の基本である社員処遇の公平性をどうとらえるかという最重要課題を無視しているとしか思えない。今回の技術的説明はこれで一段落とさせて頂き、次回以降はコロナ禍が続く状況の中での人事の在り方という原点に戻ったコラムを書いてみたい。

 

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