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ホットな話題コーナー

 

「ジョブ型雇用導入のための職務の明確化(2)日本の人事管理の基本構造」

2020年9月24日

株式会社 みのり経営研究所
 代表取締役 秋山 健一郎

 

前回のコラムでは「ジョブ型雇用」で先行している北米の人事管理教科書を参考として、その特徴に触れてみた。再度強調したいのは「職務分析の戦略的重要性」であり、出来上がった「Job(職務)」の体系が個別人事課題対応への基盤となるということである。ある特定の職務に対してだけ「ジョブ型雇用」と称して、形だけの職務の明確化をしても人事管理全体としての効果は期待できない。

今回は参考までに日本の人事管理の教科書を見て、その違いを検討してみたい。残念ながら日本には人事管理の一般的な教科書は存在しない。人事関連の本には多様なものがあり、その構成には大きなばらつきがある。個別の人事課題を詳細に扱っているものは多いが、組織経営全般の視点から、経営を支える人事管理の体系的な手順を示したものは少ない。その中で人事管理の基本的構造にまで触れているのは今野浩一郎・佐藤博樹両氏による『人事管理入門』であり、大変参考になる。本書の目次は下記の通りである。

  • 1.人事管理のとらえ方
  • 2.戦略・組織と人事管理
  • 3. 社員区分制度と社員格付け制度
  • 4.採用管理
  • 5.配置・異動の管理
  • 6.教育・訓練
  • 7.人事評価
  • 8.昇進管理
  • 9.報酬管理
  • 10.福利厚生・退職給付
  • 11.労働時間と勤務場所
  • 12.企業の人材活用とワークライフバランス支援
  • 13.雇用調整と退職の管理
  • 14.パート社員や外部人材の活用労働組合と労使関係
  •  

    大きな構成は第1章、2章で人事管理の大きな方向付けがなされ、第4章以降14章までが個別の人事課題を扱っており北米の教科書と同じと言える。一番の違いは北米の教科書で中心概念に位置付けられている「職務分析」に当たる章が、第3章として「社員区分制度と社員格付け制度」となっていることである。社員の活躍を促し会社の業績向上に貢献して貰うという人事管理の基本的な目的のために、北米ではFair Treatment( 公正な処遇)の実現を目指し、そのカギとなる概念として「職務分析」を挙げているのに対して、日本での人事管理の基本概念は「社員区分制度と社員格付け制度」であるとし、本書では「偉さの社内序列を決める基準」が人事管理の基本構造を決めることになると結論付けている。「偉さの社内序列」の意味は別として、「年功制が崩れるとしたら、人事管理にとっての最も重要な意味は、評価、賃金、昇進などの決め方が変わることではなく社内序列を決める基本構造が変わることにある」という指摘は正しい。他の教科書がこの一番重要な問題を素通りして、個別の人事課題の議論に終始しているのとは大きな違いがある。

     

    人事制度は歴史的文化的背景の中で時間をかけて作り上げられてきたもので、過去年功制を中心とした基本概念が日本企業の社員を動機づけ日本企業成長の原動力となったことは明らかである。しかし失われた30年と言われる期間を通じてこの「社内序列の基準」は変化して来た。個々の人事課題に的確に対応していくためにはこの基準を見直していく必要性が今問われている。その変化の方向を見据える重要な立脚点は「人材の多様化」であり、「多様化された人材の活用を通じた業績向上への貢献」である。同質集団の内向き志向が年功制の温床であったことを考えれば、多様な人材への対応は日本の企業にとって、大きな変革のための課題である。この対応のための基準が明確にならない限り、「評価、賃金、昇進などの決め方」をいくら弄り回しても効果はない。

     

    「多様な人材の活用」を考える上では「会社側の視点」だけではなく、「社員の視点」が重要である。社員が果たして会社の提示する「社内序列」にどのような価値を見出すのか。これからの日本を支える人材が考え、期待する会社像とはどのようなものか考えてみると面白い。年功的な長期雇用という仕組みが崩れつつある現在、ひとつの会社だけに固執したキャリアを考える傾向は低下している。会社側もその時々の戦略に合わせた人材を求めている。その時に「社内序列の基準」という考え方が多様な人材を引き付け、動機づけることが出来るか。それに代わる基準が考えられるかというぎりぎりの選択を迫られていると言える。

     

    「ジョブ型雇用」が脚光を浴びているのは、人事管理の在り方に大きな変革をもたらし、アフターコロナの世界で社員が持てる力を思う存分発揮でき、会社全体としても業績が向上していくことが期待されているからであろう。「職務の明確化」はそのためのカギとなる概念である。次回から「人事管理の基本構造を決める基準」という視点でもう少し掘り下げて検討していきたい。

     

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