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ホットな話題コーナー

 

「ジョブ型雇用導入のための職務の明確化」

2020年8月27日

株式会社 みのり経営研究所
 代表取締役 秋山 健一郎

 

前回のコラムで「過去の成果主義が掛け声倒れに終わった背景に『職務の明確化』のための思想と手法が欠落していた」と述べた。ジョブ型雇用を本格的に導入し定着させていくには「職務の明確化」が必須条件である。この点を曖昧にして「ジョブ型雇用」という言葉が独り歩きすれば、過去の「成果主義」と同じ道を歩むことになる。これから本格化する「ジョブ型雇用」導入の議論が有意義なものになるために、このコラムで「職務の明確化のための思想と手法」に関して簡単に解説していきたい。参考資料として、「ジョブ型雇用」が一般的である海外、特に北米での人事の教科書を題材にその具体的内容をご紹介しつつ、日本での人事管理の考え方との違いを考えてみたい。北米の人事の教科書と言っても様々なものがあるが、日本とは異なりその基本的な構成は同じである。今回は一般的な人事管理の教科書としてSusan E. Jackson, Managing human resourcesを基にどのような特徴があるか触れてみたい。

 

まずは目次であるが、下記のような章立てになっており(和訳は筆者)、日本で見る人事の教科書との違いが明白である。下線を引いた章は、文言の説明は別として多くの日本の教科書には見られない章立てである。

 

  1. 1.戦略的パートナーシップを通じた人事管理
  2. 2.外部・内部環境の理解
  3. 3.Fair Treatment(公正な処遇)とコンプライアンスの確保
  4. 4.環境変化に対応した変革のための人事計画
  5. 5.Job Analysis(職務分析:Competency Modelingも職務分析のひとつのアプローチとして含まれる)
  6. 6.採用
  7. 7.選別と配置
  8. 8.研修・育成
  9. 9.総報酬の設計
  10. 10.業績の測定
  11. 11.成果に基づく報酬とモチベーションの向上
  12. 12.福利厚生
  13. 13.安全と健康
  14. 14.労使管理

 

人事の仕事が人材を有効に活用し、会社の業績向上に貢献することであることは世界共通である。そのために人事が戦略的パートナーとして活動することは、近年日本の人事の世界でもよく聞かれる言葉である。ただ日本にはない大きな違いはその根幹に「Job analysis職務分析」が位置していることである。第1章から第4章までの人事の大きな方向付けに関する記述と第6章から第14章までの個別人事課題に関する章立ては日本の人事の教科書にも共通した内容である。しかし人事の基本的な方向付けを個別の人事課題に落とし込んでいく上で核となる概念として、北米の教科書では第5章「職務分析」を当てている。「ジョブ型雇用」を考えるときに「職務の明確化」がカギとなるという意味を理解するには、この教科書にある「職務分析」の位置づけを理解する必要がある。そうでなければ「ジョブ型雇用」という言葉自体が意味をなさないことになるのである。

 

本書では「職務分析の戦略的重要性は、何よりもまず、人事管理の一貫したアプローチを構築するための合理的な基礎を提供する体系的な手順に基づいている」と明言している。第1~4章で述べられている戦略的パートナーとしての環境変化に対応した戦略的な方向転換に対して、まず影響を受けるのは個々の「Job(職務)」であり、「Job Analysis(職務分析)」のプロセスはCompliance確保のための法的な対応も含むのである。その上で出来上がった「Job(職務)」の体系が、第6章以降の個別人事課題の基盤となるのである。ある部分的な役割・職務に対してだけ「ジョブ型雇用」と称して、形だけの職務の明確化をしても人事管理全体としての効果は期待できないということを理解して頂けるだろうか?

 

ちなみに本書では「Job Analysis(職務分析)」の結果として書き表される「Job(職務)」には次のようなものが含まれており、具体例が示されている。

  1. 1.職務の目的
  2. 2.職務の義務・責任・業務内容
  3. 3.職務遂行条件
  4. 4.職務遂行上必要とされる知識・スキル・経験・能力他属性(Competencies)

 

近年の傾向として柔軟な形の職務分析が必要なことは認めつつ、やはり整合的な人事制度を構築する上で必要なものとして位置付けられている。経営者が機能体としての組織を経営するうえでの出発点は職務なのである。環境変化に対応するための戦略も個々の職務に落とし込まれなければ、絵にかいた餅でしかない。戦略を実践し実現するのは個々の社員なのである。社員の立場からしても、何をどのように遂行すれば会社に貢献したと言えるのか、その結果としてどのような処遇が与えられるのかその全体像が見えることが、より前向きに職務遂行していく上では大きな要素となるのである。

 

 

 

 

 

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